旭川地方裁判所 昭和25年(ヨ)37号 判決
申請人 旭川新聞配達労働組合
右代表者 組合長
被申請人 西野与五郎 外三名
一、保証 無保証
二、主 文
被申請人等が昭和二十五年一月九日附なした契約解除の意思表示は申請組合員A、B、C、D、E、F、G及びHがその新聞等の集金代金(昭和二十四年十二月分)を被申請人等に提供(但し内学童配達人に対する同二十四年十二月分の給与金及びIに対する同月分の賞与金二万円を控除した残額)し、且つ未集金分についてはそれぞれ被申請人等の確認を得ることを条件として、本案訴訟の判決確定に至るまでその効力を停止する。被申請人等は右組合員等に対し前項と同時にその割増賃金を協議の上、これを支払え。
申請費用はこれを折半し、その一を申請組合、その一を被申請人等の負担とする。
三、事 実
申請組合代理人は被申請人等が昭和二十五年一月九日なした契約解除の意思表示は、申請組合、被申請人等間の本案訴訟の判決確定に至る迄その効力を停止する。被申請人等は左記の者等に対し、昭和二十五年一月十一日より右本案判決確定に至る迄毎月左の金員及び同金額の附加金を支払え。即ち被申請人JはAに対し金六千六百円、Bに対し金九千円、被申請人LはCに対し金八千百円、Dに対し金七千二百円、被申請人MはEに対し金九千六百円、Fに対し金九千六百円、Gに対し金九千円、被申請人KはHに対し金六千円。との裁判を求め、その申請の理由として、被申請人等は旭川市内一円を区域とする新聞販売を業とするものであり、前記の者等はそれぞれ被申請人等に個別的に雇傭せられて、その新聞等の配達並にその代金集金の業務に従事する労働者であつて、被申請人等との間には遅くとも昭和二十三年一月以前から引続き雇傭関係にあつたものである。そして肩書組合(昭和二十三年六月以前旭川市新聞配達従業員組合と称する)を組織しその組合員であるが、右組合員等が昭和二十四年十二月十九日頃使用者である被申請人等に対し越冬資金の要求をしたのに端を発して争議に入つたところ、昭和二十五年一月九日被申請人等は前記の者等に対し、それぞれ右雇傭契約を解除する旨の通知を発し、翌十日到達した。しかしそれは従業員が争議をしたとの理由でなされたもので労働組合法第七条に違反するばかりでなく、昭和二十三年六月二十三日附従業員側要求事項中の従業員が重大な事故を起した場合の外各販売店(被申請人等)は従業員組合から除外され又は脱退した者に限り解雇し得る趣旨の協約に違反し、そうでないとしても労働基準法第二十条に違反するものであるから、前記解除の通知は無効である。而して右の者等が昭和二十五年一月十一日以降休業しているのは、前記の如く、被申請人等がその就労を禁止しているためであつて、これは正に使用者である被申請人等の責に帰すべき事由による休業の場合に該当するから、労働基準法第二十六条により、被申請人等は前記の者等に対し、その休業期間中、平均賃金の六割の手当を支払うべき義務があるばかりでなく、これが履行をしないので同法第百十四条によつて同金額の附加金をも支払わなければならない。昭和二十四年十、十一及び十二月の三ケ月間に於ける出来高払による右の者等の平均賃金(新聞等販売利益の約三十七パーセント)はA金一万一千円、B金一万五千円、C金一万三千五百円、D金一万二千円、E金一万六千円、F金一万六千円、G金一万五千円及びH金一万円である。かようなわけで、右の者らの現在の地位、境遇上、当面の窮乏を救い得ないから、民事訴訟法第七百六十条により、冐頭掲記の判決を求めると述べ、被申請人等の答弁事実中申請組合員の報酬が昭和二十四年六月一日以降新聞等販売利益金の約三十七パーセントであつたこと、申請組合が同年十二月二十七日業務管理に入る旨の通告をした以降翌二十五年一月十日一斉ストライキに入る旨の通告を発したまでの間被申請人ら主張のような通告をした事実、申請組合員H、Cが被申請人Kに運搬される新聞を実力で接収したこと、申請組合が同二十四年十二月分の集金新聞等代金を被申請人らに引渡しをしていないこと、申請組合員八名が被申請人ら主張の理由で北海道地方労働委員会に提訴したことはいづれもこれを認める。申請組合は被申請人に対し同二十三年一月から翌二十四年十二月分までの休日手当、時間外割増金深夜手当等の支払につきプール計算による交互計算を求めている関係上前記代金を引渡さないものである。その他申請組合主張の事実に反する点は否認する。
(疎明省略)
被申請人等代理人は申請組合の申請はこれを却下するとの判決を求め申請組合は本件においてその構成員である各個人と被申請人との法律関係について仮の地位を定め且つ被申請人に一定額の金員の給付を請求しているが、申請組合にかかる権利がない。申請組合の主張事実中、被申請人等が新聞販売を業とするものであること、申請組合主張の八名の者がその主張するように各個別的に新聞等の配達並に代金集金の業務に従事していたこと、これらの者が肩書組合を組織していたこと、昭和二十四年十二月十九日右八名の者等が被申請人等に対し越冬資金の要求をしたのに端に発して争議に入つたところ、昭和二十五年一月九日被申請人等が右八名の者等に対し、それぞれその新聞等の配達並に代金集金に関する契約を解除する旨の通知を発し、それが翌十日到達したこと及び八名の者等の昭和二十四年十、十一及び十二月の三ケ月間に於ける出来高払による平均賃金が夫々申請組合主張の通りであることは何れもこれを認めるがその余の事実は総べてこれを否認する。旭川市内に於ける元新聞販売業者は七名あつて、旭川新聞販売所に所属し、申請組合員等が右販売所の新聞等配達並びにその代金集金の業務に従事していたところ、右販売所が昭和二十三年十一月解体し、爾来被申請人等の個人営業となると同時に申請組合員等との間に個別的に右に関する請負業務に従事してきたものである。即ち右の請負関係は申請組合員各自が自分の受持区域の新聞等の講読者に対する配達集金の仕事を完成し、被申請人ら各自がその仕事の結果に対しその販売利益の五十三パーセントの報酬を与える契約で、申請組合員において右講読者名簿を掌握していてその集金した代金は毎月二十八日までに被申請人らに完納し、若し期日までに集金ができなければ、従業員の負担となり、右新聞等の配達は組合員以外の学童配達人多数が当り、これら配達人に対する新聞等の配分、配達先の指示、監督、配達人の任免、給与の決定などは申請組合員がこれをなし、その配達学童に対する給与も右利益の内から約十六パーセントを支払うことを内容としてきたものである。又申請組合員Hは本職は靴修繕業で本件争議に参加していない従業員Nは本職が旭川市役所の吏員である。以上の次第であるから申請組合主張の被申請人らのなした契約解除の通知は右の請負契約解除の趣旨で申請組合の雇傭契約なることを前提とする主張は失当である。
被申請人らが右解除の通知をしたのは申請組合員等が被申請人らに対して引渡すべき同二十四年十二月分の新聞等代金七十万八千九百七十一円七十一銭の大半を集金しながら、申請組合の要求事項を全面的に承認しなければ、これが引渡をしない旨申入れ、これが支払をせず、これがため被申請人等は新聞社に対する新聞等の代金支払不能となるばかりでなく、申請組合員らにおいて翌二十五年一月分の新聞等の代金も亦集金の上、これが引渡をしない虞れがあつたからである。而して申請組合は被申請人らに対し同二十四年十二月二十七日労働関係の主張を貫徹するため争議に入り、その争議手段として業務管理をする旨通告し、翌二十五年一月七日ストライキの通告をし、更に同月十日に至り翌十一日から全市一斉ストライキに入る旨の通告をし、申請組合員八名が同日午前五時から一斉ストライキを実行し、且つ被申請人Kに運搬される新聞四千部余を実力で申請組合員H及びCが接収したので、被申請人らは同日旭川地方裁判所に被申請人らの業務妨害禁止の仮処分決定を得たもので、前記契約関係が仮に請負契約でないとしても申請組合員の休業は右争議行為にもとづくもので被申請人らの責に帰すべき休業ではない。なお申請組合が右争議方法として昭和二十四年十二月分の前記集金代金を被申請人らに引渡さないのは正当な争議行為でない。申請組合が昭和二十四年十二月二十八日限り被申請人等に支払うべき同月分の新聞等代金七十万八千九百七十一円七十銭の内少くとも五十八万円を集金留置し、申請組合員八名がその内各自金五万七千円宛分配領得しながら更に本件仮処分において休業手当の支払を求める必要性、正当性を欠くばかりでなく、被申請人らに右新聞等の代金の引渡をしないのは明かな不当労働行為であるから、本件解雇の意思表示は有効で而も申請組合員八名に支払うべき三十日分の平均賃金は前記代金中から対当額において相殺の意思を表示する。なお申請組合員八名は被申請人らのなした本件契約解除の通知は不当労働行為であることを理由として、北海道地方労働委員会に提訴したところ、同委員会は右通知が解雇通知と解釈しても不当労働行為とならないばかりでなく、申請組合員が前記新聞等の代金を集金留置しているのは正当な行為でない旨の裁決があつたと述べた。(疎明省略)
四、理 由
申請組合員らが旭川新聞配達労働組合の名の下に組合を組織していたことは当事者間に争なく、被申請人等は申請組合が本件においてその構成員である各個人と被申請人との法律関係について仮の地位を定め且つ被申請人に一定額の金員の給付を求めているが申請組合にかような被保全請求権がない旨主張するが、一の社団的組織体が民事訴訟法第四十六条により当事者能力があることは疑いないところであるばかりでなく、本件においてはその所属組合員の法律関係及びその休業手当金並びに同金額の附加金の支払請求権を追行する権能の授与されたことが明かであるから、申請組合に前記請求権保全の適格があるものといわなければならない。被申請人等が新聞販売業者なること、申請組合員A、B、C、D、E、F、G、Hが各個別的に右新聞等の配達並びに代金集金の業務に従事していたこと、昭和二十四年十二月十九日右八名が被申請人等に対し越冬資金の要求をしたのに端を発し争議に入つたこと、申請組合が同年十二月分の集金新聞等の代金を被申請人らに引渡をしていないこと、被申請人等が翌二十五年一月九日右八名に対しそれぞれその新聞等の配達並びに代金集金に関する契約解除の通知を発し、それが翌十日到達したことは当事者間に争ない。申請組合は右組合員等が前記業務に従事していたのは被申請人等との雇傭契約にもとづくものである旨主張するが、申組請合の全疎明によれば少くとも昭和二十三年十一月以降労働行政庁の見解にもとづき現実に新聞配達に従事する配達学童等に対する関係上右の法律関係が恰かも雇傭契約であるかのような外観がないでもないが、当裁判所はその真の実体は必ずしも申請組合主張のように純然たる雇傭契約であると断定する資料は認め得ない。従つて申請組合の右の法律関係が雇傭契約なることを前提とする申請組合の主張は総べて採用しない。ところが成立に争ない疎甲第七号証の一、二によると昭和二十五年三月十一日及び同月十五日申請組合代表者と被申請人等又はその代表者との間に同月十八日を履行期日とする新聞等の集金代金(昭和二十四年十二月分)を被申請人等に提供し、且つ未集金分については被申請人等の確認を得ると同時に右組合員は復職し、且つ被申請人等は右組合員に対し割増資金を協議支払いする趣旨の協定が成立したことを認め得る。而して申請組合の疎明によつては右履行期にその履行の提供をした事跡の認むべきものがないので、右の協定はその効力を持続しているものと認めざるを得ない。ところが被申請人等は右協定が存続しているにも拘らず前記契約解除は無条件に有効であると主張するので、本案訴訟の判決確定に至るまで何らの処置を講じないとすれば申請組合員が損害を蒙ること明かであるから、右本案判決確定するまで著しい損害をさけるため必要なるものとして、前認定の協定の趣旨に則り(尤も申請組合員の提供金中から申請組合代表者の供述によつて認められる昭和二十四年十二月分の学童配達人等に対する給与金及び同月分Iに対する賞与金二万円を控除)本件仮処分を認容し、申請費用は折半し、その一を申請組合、その一を被申請人等の負担とする。
よつて主文の通り判決する。
(裁判官 山口昇 山崎益男 成智寿朗)